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生きるためには蚊が必要です [線虫]

今度は、蚊が媒介するフィラリアという線虫です。
ミクロフィラリア.jpg
犬の血液中のディロフィラリア(犬糸状虫:Dirofilaria immitis)の子虫、ミクロリラリアです。

フィラリア00.jpg
蚊の中に潜んでいた幼虫は、蚊の開けた穴から皮膚の下にもぐりこみ、一定の期間潜伏します。
しばらくして大きくなった幼虫は、血液の中へと入り、最終的に心臓へと移動します。
心臓で成虫になったフィラリアは、子虫を産んで、その子虫が血を吸った蚊へと・・・
(フィラリアは卵胎生ですので、親の体の中で卵が孵化して、直接子供を産みます)

このフィラリアという線虫は蚊という媒介者(=中間宿主)を必要としているので、
蚊と仲良くできるのかと思うとそうでもないらしく、
あまりに多く蚊に移行すると蚊自身も死んでしまうんだそうです。

でも、蚊はせっせとフィラリアを運んでいるんですね。
蚊はフィラリアから何か頂いているのでしょうか?
うーんどうなっているのでしょうね?気になるところではありますが・・・

昔の報告ではありますが、
自然の蚊の5.6%に感染が認められたといった報告とか見ると、
20匹の蚊に刺されると感染するかもしれない計算になりますよねぇ。
熱帯医学 Tropical medicine 17(1). p35-40, 1975、によります。
(今はそんなことはないと思いますが。)

人のお話では、
日本における衛生虫学の研究 7(1999) Ⅳ線虫類 9.ディロフィラリア症.が詳しいでしょうか。

砂場のメロン [線虫]

線虫の卵についてもう少し詳しく見ていきましょう。

回虫のところで少しだけ触れましたが(ザラザラとか、すべすべしているなど)、
一番外側が固い膜のキチン層(chitinous layer)に覆われていて、
その形状が、いろいろな虫で異なっています。

一番整った形といえる、犬回虫ではまるで、マスクメロンばりのネット状をしています
回虫卵.png
Proc. Helminthol. Soc. Wash.50(1), 1983, pp. 36-42.によります。
なので、形を確認すれば、ある程度種類を見分けることができるかもしれませんが、
実際は・・・光学顕微鏡では確認するのは難しいでしょう。


さて、以前から公園の砂場が、寄生虫卵に高率に汚染されていると、
指摘されていることはご存知と思いますが、その割合は51.9%との報告があります。
調べ方が違うので一概に比較は出来ませんが、
同地域の犬では6.3%、猫では19.2%が感染していたとのことですから、公園の方が多いんですね。
(日本に限らず全世界での傾向であるようです)
日獣会誌 48, 697~700 (1995).によります。

しかし、それだけ高率に公園の砂場が汚染されているのですが、人にはほとんど感染しないらしいのです。

まあ、人回虫と非常に近い豚回虫(同じ種であるといわれる)ですらあまり感染しないのですから、
わざわざ、犬や猫の回虫も人に寄生する必要がないのでしょうね。
(ペットにはうつるのでしょうからご注意を)
人における、犬回虫、猫回虫感染のほとんどが、生の肉を食べることによって感染するようです。
Parasitology International 56 (2007) 87–93.が詳しいでしょうか。

きょうはこのへんで。

あっ、メロンと言えばもう一つ、
回虫卵1.png
私は、メロンを食べるとイガイガしてしまいます、口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome;OAS)と、
勝手に診断していますが、その詳しいお話は機会がありましたらということで・・・

タグ: egg

塩水に浮かべます [線虫]

ここ何回かで動物たちに寄生する線虫の卵をご紹介していますが、
どうやって調べるのでしょう?

答えは簡単で、比重の重たい液体に浮かせて調べるのですね。
それぞれの虫卵の比重は下表のようになります。

比重
ライオン回虫(Toxascaris leonina) 1.0559
イヌ鉤虫(Ancylostoma caninum) 1.0559
犬回虫(Toxocara canis) 1.09
馬回虫(Parascaris equorum) 1.0969
猫回虫(Toxocara cati) 1.1005
豚回虫(Ascaris suum) 1.1299
豚鞭虫(Trichuris suis) 1.1299
犬鞭虫(Trichuris vulpis) 1.1453
条虫(Taenia sp.) 1.2251
旋尾線虫(Physaloptera sp.) 1.2376

ED David ‎1981、Evaluation of a modification of the dada technique・・・によります。

で、使われる水溶液は、

比重
MgSO4(450g MgSO4+1,000ml water) 1.2
ZnSO4(331g ZnSO4+1,000ml warm water) 1.18-1.2
NaNO3(338g NaNO3+1,000ml water) 1.18-1.2
NaCl(350g NaCl+1,000ml water) 1.18-1.2
Modified Sheather’s Solution
(454g sugar+355ml water+6ml formaldehyde)
1.27

といった具合です。

使い方は、1g程度の便を試験管にいれ、水溶液を加えて攪拌、
5分間の遠心分離後、表面張力で試験管から盛り上げ20分静置し、
表面の液体をカバーグラスにとって検査します。

簡易法では、遠心分離せずに表面張力で盛り上げた所にカバーグラスを置き、
15分静置して検査しますが、この方法では T. vulpis.などの検出が出来ない可能性があるとのことです。
Vet Ther. 2005 Spring;6(1):15-28.によります。

もちろん、比重の重たい虫卵は、それより比重の軽い液体では検出できないのはいうまでもありませんね。
実際はぜんぜんわからないのではなく、みつけづらいということらしいですが、
検査で見つかった場合には「いた」と言えるのですが、
見つからない場合には「いない」と言い切れる性質の検査ではありません。

さらに、通常、病院で使用されるのは、飽和食塩水(比重1.2位)か、
硫酸マグネシウム加食塩水(比重1.23位:水1,000ml+食塩290g+硫酸マグネシウム185g)ですので、
旋尾線虫卵の検出は出来ないのでしょうね?

たかが検便、されど検便、というお話でした。

怖~~~い寄生虫です [線虫]

今日は線虫のなかまの、鉤虫さんです。
このなかまは恐ろしい感染の仕方で有名ですね。
鉤虫.jpg
上は犬の便からの虫卵で、犬鉤虫(Ancylostoma caninum)さんのものでしょうか?
卵の中ではすでに分裂が始まってますね。
これ以外に小さい虫が入っていることもあります。

下が鉤虫達の成長の仕方です、
鉤虫00.jpg
幼虫が皮膚から侵入することにより、あるいは食べることによる感染するようですが、
経口感染の方がより成虫になる確率が高いので、それが本来の道なのでしょう。
しかし、皮膚を食い破って感染するのはなんともすごいですよね・・・

「鈎虫及び鈎虫症の疫学」目黒寄生虫館。が詳しいでしょうか。

うんちに出るのは私だけではありませんが~ [線虫]

動物に寄生する、線虫の仲間の、鞭虫の卵です。
便から寄生する虫はこの方だけではないのですが、鞭虫と呼ばれています。

鞭虫卵.jpg
犬の便からのものですので、犬鞭虫(Trichuris vulpis)さんでしょうか?

この犬鞭虫は、便の中の卵から感染しますが、この卵は非常に長生きで、
土の中で数年も生き残るので、回虫以上に根絶は困難だそうです。
鞭虫00.jpg

いっぱい虫がいると血便などを引き起こすそうですが、少量では検便とかでもわかり辛い虫であるうえに、
一見無関係の高カリウム血症しか示さない場合もあるようです。
意外と症状を示さないのに、お腹の中に飼っているわんちゃんがいるかも知れませんね?
J Parasitol Res. 2011;2011:によります。

ご用心を。

植物に寄生する線虫の分類です [線虫]

植物に害を及ぼす線虫(Nematoda)たちの分類表です。
日本語名は代表名で、分類の数値とは必ずしも一致しませんが参考程度にしてください。


全身の形 代表的長さ 代表的太さ 針の長さ 食道球 卵巣 陰門位置 (全身の%or肛門までの距離) 出展
Paratrichodorus、Trichodorus (ユミハリセンチュウ) 棒状 0.75mm 0.023mm 0.034mm 無し 前≒後 55.2% 1
Longidorus (ナガハリセンチュウ) 棒状 6mm 0.078mm 0.21mm 無し 前≒後 48.8% 2
Xiphinema (オオハリセンチュウ) 棒状 1.7-3mm 0.04-0.07mm 0.14-0.23mm 無し 前≒後 52.5% 3
Tylenchulus (ミカンネセンチュウ) 棒状 0.3mm 0.065mm 0.011mm 前のみ 81% 三角 4
Paratylenchus (ヒメセンチュウ、ピンセンチュウ) 棒状 0.366mm 0.030mm 0.021mm 無し 前のみ 50.5% 三角 5
Tylenchorhynchus:Sauertylenchus (フタワイシュクセンチュウ) 棒状 1mm 0.04mm 0.022mm 前≒後 52.5% 6
Meloidogyne (ネコブセンチュウ) 涙状 0.76mm 0.46mm 0.014mm 前のみ? 0.018mm 7
Pratylenchus (ネグサレセンチュウ) 棒状 0.42mm 0.015mm 0.017mm 前>後 0.053mm 8
Helicotylenchus、Scutellonema (ラセンセンチュウ) 棒状 0.7mm 0.035mm 0.03mm 前≒後 65% 9
Aphelenchoides (イネシンガレセンチュウ) 棒状 0.5mm 0.18mm 0.012mm 前>後 72% 三角 10
Bursaphelenchus (クワノザイセンチュウ) 棒状 0.82mm 0.025mm 0.017mm 前>後 73% 三角 11

その他に、頭部の形状や、尾部の形状などが分類の決め手になりますが書き切れませんので・・・

参考は、下に示しておきます。
1:Fundam. appl. Nernatol., 1994,17 (4), 323-332
2:Nematology, 2012, Vol. 14(3), 285-307
3:Fundam. appl. NemalOl., 1998.21 (5),581-604
4:Nematology, 2012, Vol. 14(3), 353-369
5:Nematology 16 (2014) 323-358
6:Iğdır Univ. J. Inst. Sci. & Tech. 2(2): 17-28, 2012
7:Journal of Nematology 37(3):343-353.2005.
8:Nematology, 2001, Vol. 3(6), 607-618
9:Nematology 00 (2013) 1-27、Revue Nématol. 6 (2) : 327-329 (1983)
10:Journal of Helminthology,Vol,VLIX,No.2,1970,pp.141-152.
11:Nematology, 2008, Vol. 10(1), 69-78

それぞれの参考を読むときに、記号が使用されていますので、下記に図示しておきましょう。
線虫の体2.png
赤字が使用されている文字です。
”a”の値が最大の幅を表していないこともあるので、それぞれの参考で読み解く必要があるでしょう。

では、今日はこのくらいで。

1/3が神経です [線虫]

今日は線虫の体についてです。

線虫の体.png
多くの寄生をする(あるいは生物食などの)種の独特な構造として、口針というものを持っています。
この針をつかって、別の生物に穴をあけ、栄養を吸収したり、侵入する入り口を作ります。

そのほかに、腎臓のもとみたいなものである排泄器官や、脳である神経環も持っています。

こんな959個ほどの(Caenorhabditis elegans)細胞からなる体ですが、
ちゃんと機能する構造をしているのですね。
さらに、そのうちの302個が神経細胞ということです。

うーん、ほとんど神経の塊みたいなものなんですが、
そんなふうには全く見えないところがこの虫のすごいところなんでしょうかね?
Human Molecular Genetics, 2000, Vol. 9, No. 6 Review. 869–877.からのお話でした。

おす、めすって?結構曖昧です [線虫]

さて、線虫では数件、追加のお話が必要でしょう。


一つは、性についてはなはだ寛容であることです。

ヒルと呼ばれてますが・・・血は吸いませんょ」でワムシさんには、
メスのみのグループが存在することをお話しましたが、線虫はもっと変わっています。

Caenorhabditis elegansという種類の自由生活をする線虫がいるのですが、
この種類は、雌雄同体で自分の精子を使って、自身の卵を受精させ子孫を残します。

ここまででも十分変わっているのですが、
さらに、生まれた子供のごく少数にオスがいて、その個体は、
雌雄同体個体を優先的に受精させることが出来るそうです。

ここまでいくとどれが、オスか、メスかという定義すら怪しくなってきてしまいますが、
線虫ではそういった仲間が数多く存在します。
Genetics. 2010 Nov;186(3):997-1012.が詳しいでしょうか。

ちなみに全ての種が、雌雄同体というわけではなく、
当然、雌雄異体でオス、メスのある種類も混在しています。
その辺のことは、遺伝子レベルまで解明されていて、tra-1など複数の遺伝子が、
Curr Top Dev Biol. 2008;83:41-64.で詳しく述べられていますね。


二つ目は、その精子の形状です。

その精子は、他の生物にあるべきはずの鞭毛を持たず、アメーバーのごとくずるずると移動するのです。
何もかにも、常識はずれ(どこが常識なのかは視点の違いにすぎませんが)なのですが、
まあ、そういった生物もあるということなのでしょう。
回虫精子.png
上図のような精子が核をひきずる形で、移動していきます。
駆動原理はというと、心棒となる繊維が形成され、細胞膜がキャタピラーのように動いていくようです。
この際形成される繊維は「アメーバというのは・・・運動の仕方のこと?」でお話したアメーバのものとは異なり、
ワイヤーロープ状の、撚りが二重になった形状をしたタンパク質(MSP:major sperm protein)とのことです。
Journal of Cell Science 115, 367-384 (2002).にアメーバー様精子の移動の仕方が、
Journal of Cell Science 107, 2941-2949.に繊維の形状が、解説されていますね。

ブタはヒトとおなじなのかぁ? [線虫]

回虫のお話が出ましたので、続けてみましょう。

大体の寄生虫はそれぞれの決まったすみか(宿主)を持っています。
犬回虫は、犬に、猫回虫は、猫にといった具合にです。(犬小回虫は、犬、猫どっちもですが)
ご存知のとおり、それ以外のすみかを見つけることだってあります。

多くの場合は成虫になれずに幼虫のまま体内に留まりすごします。
これを幼虫移行症といって、犬回虫がヒトに寄生してトキソカラ症と呼ばれたりします。


今日はそれとは逆に、同じだけどちょっと違うというお話です。

ブタの回虫はAscaris suum、ヒトの回虫はAscaris lumbricoidesで、
この2種がおんなじだという報告があります。
BMC Vet Res. 2014 Apr 27;10:99.によると、
遺伝子学的に若干違っているけれどもこの二つの種類は、同じ種と考えられるのだそうです。

そうなると、豚回虫が人に寄生するのか否かが気になるところですが、
人に寄生して産卵まで至った例は見付けられませんでしたが、

Jpn. J. Infect. Dis., 64, 428-432, 2011.に、
人に感染して肺にまで移行しましたという報告がありました。(産卵までもうちょっと?)
意外と多いらしいので、犬や猫の回虫より、
人に対しての寄生能力は高いとみなしたほうが良さそうですね。

ちなみに、
J.J.A. Inf. D. 78:1036~1040, 2004.によると、
九州地方の豚の30%(全国の豚も同等位)に回虫の感染があるそうです。

手洗いはまめに、生食は気をつけてね、というお話でした。

体中を回ります [線虫]

線虫つながりですが、今日はペットのお話です。

回虫の卵です。
回虫卵00.jpg
犬の便から見つかったので、イヌ回虫(Toxocara canis)でしょうか?

大きさをはかってみましょう、
回虫卵01.jpg
80μm以上あるので犬回虫で間違いなさそうですね。

この他に、いぬには、犬小回虫(Toxascaris leonina)といわれる種類が寄生するのですが、
小さいといってもそれほど違いはなく、
(通常、1.5倍くらい犬回虫のほうが大きいですが)
卵の殻がガサガサしているほうが犬回虫で、サラサラのほうが犬小回虫という感じです。


さて、生物がなぜ寄生するかというかですが、すごーく難しい話のようです。
なので、その答えは私にはわかりません。


単純に考えると、そこに住みかがあったからということなのでしょうか。

人間が宇宙に出たがるように、全ての生き物は広がって行こうとしますので、
ただそこに「住めるところがあったから」そう考えるのが自然でしょう。
利用可能なエネルギーがあって、そこにたどり着けさえすればそこは我が家なんでしょう。


とまあ、単純なことを回虫が考えるわけもなく、感染した後、体の中を右往左往なんですねぇ。
回虫.jpg
図は猫ですが、犬、猫とも同じようなものです。猫回虫(Toxocara cati)は胎盤を通過できないようですが。

卵の中で、ある程度発育した幼虫(L:Larva?)は2回脱皮して、
L2と呼ばれる状態で誰かに食べられるのを待っています。

便?とともに、食べられた卵は、小腸の中で孵化し、腸の壁を突き破り、血液の中へと・・・
血液の中ですごしていた幼虫は、様々な組織の中へと入り込みます。
このときには、L4と呼ばれる状態になっています。

運良く?、肺に到達した幼虫は、今度は気管をつたって口の方に戻り、
食道、胃、腸へとまた来た道をたどります。

はれて、腸の中で成虫となり卵を産むのでした。
(いろんな経路がありますが、おもなものは、気管を通るのでした)

いやあぁ、ミクロの決死圏さながらの大冒険でしょうか?
猫や、犬はたまったものではないでしょうが・・・
子猫や子犬が咳をしたら、ひょっとして幼虫が悪さをしているのかもしれません。

あっ、人も同じですよ、ヒト回虫(Ascaris lumbricoides)が。


追加)治療、疫学などは、
Vet Parasitol. 2013 Apr 15;193(4):398-403. がお勧めです。
具体的には感染が確認される宿舎では、
生後2,4,6、および8週目に駆虫し、6ヶ月まで毎月しましょうとのことです。
昔からある病気なのですが、根絶は難しそうです。